シーマン短編集　ファイティングポーズ

ファイティングポーズ
『天使なんだ。新谷理沙子は天使なんだ。
わいわいと騒がしい休み時間の教室で、村井邦明は数人の友達と楽しそうにおしゃべりをしている理沙子を遠くから見つめながら、そんなことを考えていた。
理沙子は実際にかわいい女の子だったし、クラスでそう思っているのは邦明だけではない。邦明が知っているだけでもライバルは五人いる。そしてその中の一人は忌々しいことに戸塚清春だ。清春が目を光らせている間は、誰も理沙子に手を出したりはしない。それどころか話しかけることも、おはようの挨拶すらしない。みんな清春を恐れていた。
だから邦明もこうやって遠くからこっそりと眺めているだけ。友達と楽しそうにおしゃべりしている理沙子。無邪気な笑顔を見るだけで邦明は胸がどきどきして、体が震えた。
かわいいっ。』
高校の誰もがあこがれる理沙子。邦明も当然理沙子に惹かれていた。しかし暴力のもうしごのような悪童清春もそれは同じだった…。
図書委員
『廊下の向こうから桜木ひかりが歩いてくるのが見えたので、軽く手をあげて挨拶した。よう、という感じで気さくに。それが青島拓郎のスタイルだ。
ひかりはかすかに視線を合わせただけで、ろくに返事もせずに通り過ぎた。それが彼女のスタイル。決して無視したわけではない。かすかに視線を合わせただけで、彼女としては充分なのだ。拓郎もそれを知っていたので、気分を害することはなかった。
「お前さ、よく桜木なんかに話しかけるよな」
一緒に歩いていた本田博光がうめく。』
かなりの美人だがほとんどクラスの他の人間と話しもしない「ひかり」。そんな彼女と拓郎はある日図書委員に選ばれて…。