しあわせさがし21_Looking for Happiness

著者:佐藤良香(さとうりょうか)が贈る21編のショートショート集

毎日が同じことの繰り返し、何も変わらない日々。
「何かいいことないかな」僕の口癖だった。
いいことって何? と人に聞かれても明確に答えることができない。
はっきりとは姿を見せない、良いか悪いかさえも判らない「いいこと」を求め、眉間にしわを寄せて、僕を見ると狂ったように吠える隣の犬に驚かされて出勤をするという平凡な日々が続いていた。
卒業シーズンを迎え、隣の犬が僕をチラッと見るだけで吠えなくなり、しばらくして、いなくなった。
例年は気にも留めなかった近所のサクラ並木が、樹木ごとに順番を守って、固そうな蕾が少し膨れては咲き始め、狂ったような満開を経て、そして静かに散った。
変わらないものはない。そのとき、僕の眉間のしわはなくなっていた。
「この支配からの卒業」尾崎豊の歌が聞こえたような気がした。